助詞によって伝わり方が変わる
こんにちは、文章作成講座講師の古市です。
今回は、去年話題になったニュースから助詞の使い方を考えてみましょう。
免疫の働きを弱めない治療法がノーベル賞に
2018年10月1日に「がんの免疫療法」を開発した京都大学特別教授の本庶 佑氏とジェームス・アリソン・テキサス大教授が、2018年ノーベル医学生理学賞を受賞したというニュースがありました。日本人のノーベル賞受賞は2年ぶり、医学生理学賞は5人目となりました。
人間の身体は本来、免疫によって身体が守られる仕組みになっていますが、がんは免疫の働きにブレーキをかける働きがあります。免疫が抑止されることで、がんは容易に増殖されますが、免疫療法はそれを阻止し、がんに対しても正常に免疫が働くようになります。
がんの免疫療法は、従来の外科手術、放射線療法、化学療法に次ぐ新しい治療法として注目されており、免疫療法がノーベル賞を受賞した理由もこの点にあります。
助詞の使い方で伝わり方が変わってしまう
朝日新聞に掲載された本庶特別教授のインタビュー記事には、「基礎科学「も」でなく「が」 本庶さんが語った重要性」という見出しがついていました。
インタビュアーの「基礎科学も重要ですね」との問いに対し、本庶氏は「基礎科学が、重要なんです」と答えています。
本庶氏がこだわるインタビュー記事の見出しの助詞
「基礎科学も〜」と「基礎科学が〜」は、どのように違うのでしょうか。
「基礎科学も重要なんです」と言った場合、他にも重要な過程が幾つか並立していることを示します。科学や研究の過程として「基礎」「応用」「開発」の3つが挙げられます。
基礎研究は、特別な応用・用途を直接考慮することなく、仮説や理論を形成するため、あるいは新しい知識を得るための理論的なプロセス、応用研究は基礎研究によって得られた知識を元に、目標を持って実用化の可能性を確かめたり、既に実用化されている方法に対する新たな応用方法を探すプロセスになります。そして、開発研究は、前二者や実際の経験から得られた知識の利用で、新しい装置やシステムの導入・改良を行うプロセスです。
「基礎科学も〜」と言った場合、これらのいずれかプラス基礎科学が重要であるというニュアンスを持ちます。
一方で「基礎科学が重要なんです」と言った場合はどうでしょうか。「基礎科学こそが全ての科学の文字通り礎であり、重要である」という意味になりますね。「本庶氏が語りたかった一番のポイントは基礎」ということが読んでいてわかることでしょう。
実際、本庶氏は、10月11日には文科省を訪問し、「生命科学はテーマが広く、結果が出るまでに時間が掛かるため、基礎研究費を少しずつでも増やして欲しい」と、基礎科学の研究費充実を要望されています。
文章も基礎が重要
「も」と「が」、たった一文字の違いですが、このように文章の主題を左右する重要な違いが生じてきます。文章作成時には、「何をいちばん伝えたいのか」を念頭において、それに適した言葉を選ぶようにしましょう。文章も基礎が重要です。
この記事を書いた人
古市 威志
Mac専門誌、技術系出版社の編集者を経て、現在は外資企業のネットワーク管理者、テクニカルライター&編集者、パソコン教室・こども将棋教室講師の3足のわらじを履く。 編集者としてWordPressやMac, iPhone/iPadなどの書籍を数多く担当・執筆。ライターとしてもEvernoteやiPhone/iPad関連書籍などの紙媒体から、Web上のICT用語集までジャンルを問わず幅広く執筆している。Macは30年来、iPhoneも最初期からのユーザー。著書に『Scratchではじめる ときめきプログラミング』『EVERNOTE Perfect GuideBook [改訂第2版]』がある。